ひとり飯(愛しの担々麺③)

半年以上は経っていたと思う

久しぶりにあの担々麺のお店へ

行くことができた

良かった

いつものように暖簾が出ていて

ちゃんと営業している

いつも行くのが14時過ぎで

今日も店内は誰もいない様子

嬉しくてドアを開ける

奥さまはすぐに気付いてくれて

にっこりと

いつもの優しい笑顔で迎えてくれた

カウンターの向こうには

時々見かける息子さんがいて

今日は彼が

担々麺を作ってくれた

出前に行ったり帰ったりする姿を

よく見かけていたが

時々こうして厨房に

入って料理することもあった

ランチの終わる時間は

店内の片づけ作業や

夜の仕込みに入っていることもあり

客はなくとも忙しい

とはいえひとり飯

ゆっくり食べれる時間帯を選ぶのは

理解して頂けると思う

ご主人も忙しいのだろう

少し味は違うのだが

全然気にならない程度で

いい跡継ぎだなって

むしろ微笑ましくなるくらいの気持ちで

食べ終えた

「ごちそうまでした」

レジでお金を払う時に

奥さまが言った

「主人ね、亡くなったんですよ」

体調を崩して病院に行ったときは

もう手遅れだったそうで

あっという間だったと

奥さまは優しい笑顔を向けたまま

説明してくれた

私はといえば

奥様の話を聞くのが精一杯で

涙がボロボロこぼれて

「残念です・・・」

と言ったのは覚えているが

奥さまを気遣う言葉なんて

ひとつも出てこなかった

そのまま泣きながら

しょんぼりと店をあとにする

本当に残念だ

あの担々麺はもう食べれないのだ

食べてる途中でふわっと湧き上がる

あの隠し味

もう味わえないのだ

いつものカウンター越しの

注文だけのやり取り

もうないのだ

ご主人はもういないのだ

ものすごい喪失感を抱えて

車を走らせる中

ご主人に伝えておいて

良かったと

担々麺が本当に美味しくて

いつも幸せな気持ちにしてくれた

そんな気持ちを

伝えておいて良かったと

心底思ったよ